栗の木通信

栗の木エッセー作品紹介

2009年06月12日

[栗の木エッセー賞]

昨年春に募集した「栗の木エッセー」ですが、今年に入り何通かのご応募が届きました。

ご応募いただきましたこと、大変嬉しい限りです。
またこの場で順に掲載したいと思いますので、是非ご覧下さい。


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「マシュマロと母の笑顔」
                          静岡県 鈴木ふき江 様


 私の母は九十七歳になる。認知症など何処吹く風とばかり、記憶力抜群である。孫十五人、曾孫十九人の名前を次々と言って私を驚かす。
「お母さん!こんにちは!具合は如何?」
「まあまあだね!」
 顔はほころぶが身体は思うように動かず一日中ほとんど寝て過ごしている。しかし、食事とトイレだけは人の手を借りずに車椅子で行く気丈な母である。実家とショートステイを行ったり来たりしているが、最近は私が訪れるたびに直ぐ口にする言葉がある。
「死にたい!死にたい!」
すでに夫と長男に先立たれた母は
「もう何も世の中のお役に立たず、周りのみんなに迷惑ばかりかけているから、お爺ちゃんや弘が早くお迎えに来てくれるようにそればかりお願いしているんだけど…」
私の顔を見るなりいつも口癖のように訴える。真剣な母の訴えに私は何と答えたら良いのか返答に窮する。其処で母の大好きなマシュマロを差し出す。あちこちのお店を巡り、変わったマシュマロを見つけては買い置きしている。
「お母さんが生きているからこそ私と一緒にこうしてマシュマロを食べ、話が出来るんだよ!お母さんが其処にいることが大切なことなんだよ!」
不可解な顔をしながらも母はピンク、私が白いマシュマロを頬張ると「ふわぁー」と柔らかな笑顔が生まれる。人生を「生き切ることの難しさ」この重い課題を突き付けられた私にこの時ほどお菓子の存在が大きく感じたことはかつて無い。母と私の間の空気が少し和らぐことで私は救われる思いがする。
 今日も私はバッグにマシュマロを忍ばせ母の待つ介護施設に出掛ける。そして母と私は口中に広がるマシュマロのほのかな甘さに包まれる。言葉では言い表すことが出来ない「今を生き切る」ことの大切さをしみじみと味わいながら……。

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