栗の木エッセー作品8
2008年12月10日
本年春に創業二百年を記念して募集しました「栗の木エッセー賞」のご応募総数830編のうち、計13作品を連載でご紹介いたします。
独自に持つ「お菓子」への思いがたくさん詰まっています。
どうぞご覧下さい。
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遺伝子
長野県 飯沼英雄 様
「やっぱり、買ってきちゃった」
と、私はひとりごとを言いながら、生菓子を食べ始めた。じわ、じわっと甘味が口の中でとろける。この甘味が忘れられずに、私はある店から買ってくる。その甘味がグルメだった亡き母への思慕のように、私の体を包みこむのであった。
三年ほど前に亡くなった母は、生前は一人生活をしていた。買い物は歩くしか手段がなかった。遠方の時は、近所に住んでいた私が頼まれた。その時、決ってある店で生菓子を買うように頼まれた。甘党の母はかりんとうやあめも好きだったが、この生菓子はよほど好きだったようだ。
その母がある時、私の祖父である父親の話をした。
「じいちゃんは食べることが好きで、山の畑へ行く時途中で栗を拾ったり、木の実を採っては食べたもんだよ」
そんな話を何気なく聞いていた私だったが、母が亡くなってみると、なんのことはない、母親もグルメだったことに改めて気づいた。
私にはこんな場面が浮かんでくるのであった。フライパンで小麦粉を使って、パンを焼きジャムをつけて食べるのだ。それは見た目には素っけない作りであったが、忘れられない味が私の口に残っている。まぎれもない、菓子なのであった。私を食いしん坊に育ててくれた味だった。それは母が亡くなる頃まで作ってくれたのであった。
祖父から母へと、グルメの遺伝子は継がれた。さらに私にも同様である。生前、母によく頼まれて買ってきた生菓子は、体中に楽しみや幸福を、今でも与えてくれているのである。


