栗の木通信

栗の木エッセー作品1

2008年11月04日

[栗の木エッセー賞]

本年春に創業二百年を記念して募集しました「栗の木エッセー賞」のご応募総数830編のうち、計13作品を連載でご紹介いたします。
独自に持つ「お菓子」への思いがたくさん詰まっています。
どうぞご覧下さい。


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幼い日のお菓子のある風景
                   埼玉県 PN・会田明子 様 


「ただいま、とうちゃんは?」
「あ、帰って来たか」
「おみやげは?」
「皆が揃ってからにすっぺよ」
「あーあ、は~ら減っちゃった、腹減っちゃった。待てないよ~」と、ほっぺが風船になりながら言った。
 父はお灸をしに行って来たので、お土産にお菓子を買って来てくれた。
白餡とあずき餡の入ったのを、一人ひとつずつ。
 この日私は奉仕作業をさぼり、カランコンとランドセルを賑やせながら帰宅した。
 家の前の花壇がすっかり陰ってきた頃、姉が学校から帰宅し、母が大きな丸い卓袱台の上で、お菓子の包みをあけ始めると甘い匂いが空気の網目を通り抜けてきた。
 五本の手がお菓子を掴んだ。
私と姉は縁側に座ると、どっちが遅くまで食べていられるかを競う事をして遊ぶ事にした。
 おいしい餡は最後に残し、周りから契ったり、舐めったりしながらゆっくり味わった。「姉ちゃん、大きくなったら何になりたい」
「バスの車掌さん」
「ふーん、おら、ハイヒール履いて、ピンクの口紅付けてさ、勤め人になりたい。
ほんで、いい人めっけて嫁に行くんだ」
「姉ちゃんはさ、あの紺の制服と吊した鞄の格好がしたいんだよな」
などと話しながら競っていったが、「や~めた、あー食っちゃった、食っちゃった。おれの負け」と言いながら妹に半分ちょうだいとせがみ始めると、「ちっちゃい子の分まで取るなよ」と母に怒られてしまった。
 父は、「ほんだら、これやっから」と半分っこしてくれたが、母は「いつもそうやって甘やかすんだから」と不機嫌になった。
 「んでは、今度から一人三個ずつ、もう一つはうぐいす餡が入ったのだ」と父が言った時、三姉妹は「わ~い、やったぁ」と踊って喜び、私は父に貰ったお菓子を思いっきり齧った。
 皆は大爆笑。
 あの時笑っていた父と母は、もういない。

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